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夢だったら良かった。
明日は氷点下になるらしい、と喜久水庵の店内を映しながら天気予報で。喜久水庵は俺の地元の有名和菓子メーカーだ。ここの抹茶入りどら焼き『どら茶ん』は俺の大好物ベストスリーにランクインしている。
それを見た後、さっさと寝たよ。何せ明日は土曜日だ。金曜ロードショーなんか何回も見たようなアニメか海外のSFの陳腐ショーだ。エディー・マーフィーが出てれば別だけどな。
こうして、ベッドまで辿り着いたのだが、シーツが湿っていた。目で見てすぐ分かるほどだった。
なんだこれ?
まさか雨漏りか? 天井を見るが、白一面に白熱灯の暖かな光を帯びているだけだった。
じゃあ、ションベン漏らしたか! 高校生になってまで漏らす奴がどこにいる。もしいたら、世界地図製造工場に就職しろ。職安だ。一応言っとくが我が曽宮家は動物は金魚のみだ。その他家族構成は寝る前に紹介している暇はない。
ホントに何なんだ。ここは匂いだな。己の本能がそう言っている。間違いない。しかし、毒物かもしれない。ここは、科学の『発生した気体は手で仰いで嗅ぎましょう』に則っとることにする。
俺は少しベッドに顔を近づけて手で仰いでみた。
あまーい香りが鼻の奥の合流地点に突き刺さる。例えるなら、? 分からん。初めてだ。こんなに動悸が起こる感覚に……
その時、俺はどうなってんのか、知る由もなかった。
こんな濡れたシーツは要らん。今日はシーツなしで寝ることにした。
そして、シーツを取り終えるとぐっと疲労感が沸いてきた。
こうして、俺は自室のベッドに吸い付くように倒れこみ、消灯。やっと睡魔が襲い始めた頃だった。
自分のではない動作で起こる布擦れの音がした。折りたたみベッドの下からだった。
「おにーちゃんっ」
妹だ。秘密話をするような小声だった。つか、何故俺の部屋に居るんっ……どぁ!
抱きつかれた!
「あたしの。しぃつとったんだ?」
あたしの? 否、あれは俺のシーツだ。心を落ち着かせるブルーのシーツは俺のだぞ。一つ、思ったんだがこの展開はエロい。正直面白い。友達の持ってるエロゲーみたいだ。くそ、あの主人公が少し羨ましく思えた。
妹が俺の首に腕を回して俺は下敷き状態。少し、からかってやろうと思った。寝ぼけるのにも程度っつうのがあるのだから。本当に少しだけの筈、だった。
俺は妹を抱き返した。
「ふすぅぅ」
妹の息が漏れて、布団を伝わり首元に当たる。妹との距離がさっきより縮む。もうゼロ距離。
さっきから妹の描写をできないのは暗いからだ。視覚以外でなら、描写は可能なので今からまとめて述べる。
聴覚の耳。これは、うめく声。なんか、風邪の時みたいな息遣いでいやらしい。こういうのを喘ぐって言うのだろうか。
味覚の舌。馬鹿、こんなの使ったら二度と親とは会えん。ちょっと、気になるから唾液がいっぱい溜まってきているんだけど。
触覚の肌。大事なポイントは、絶対に触っとらん。妹の軽くて薄い胴を支えているだけだ。胸の感触は柔いとでも言ってやろう。俺のチェストが妹のバストと密着しているから、わかることだ。凄いな俺の妹。髪を撫でた感触も子供とは思えないほど細かくさらさらしていた。
嗅覚の鼻。甘い匂いがした。特に妹の体の方から。髪の匂いはいつでも嗅いでいるから、この際嗅がんでいい。邪魔だ。気になる。
好奇心なのか悪魔の囁きなのか、はたまたどちらもか、俺の手は妹の魔の三角ゾーンを目指していた。触っていいのか? 保健体育の先生は「もし触られそうになったら逃げるか、叫べ」とかなんとか。叫ばれたら困る。その時だった。
「おにぃ……ちゃん。いい、の、ほんと……に?」
俺の体が驚きのため波打った。
「ホントごめん。俺が悪かった!」
小声だけど、謝罪。どうか嫌いになるな。人に言うな。
ありったけの思いをこめて発したコトバ。
「くうくう」
寝ていた。今のは寝言か? 寝言なのか! マジ、こいつ、襲いてェッ!
ぐらんっ。
睡魔だ。妹を抱く手で時計を取り、よからぬ行為を犯そうとした手でライト兼アラームストップボタンを押す。――〇時二〇分。もう、明日じゃん。
俺は淀んだ夢ではないが夢のようなヒトトキから、レム睡眠に突入した。