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すべての愛がゆるされる島 (メディアワークス文庫)すべての愛がゆるされる島 (メディアワークス文庫)
(2009/12/16)
杉井 光

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◆基本データ
著者:杉井 光
出版:メディアワークス文庫
初版:2009/12/16
世界観:現代
主要人物:父親、娘、姉、弟
ジャンル1:ミステリ
ジャンル2:恋愛
キーワード:愛の観念、謎多き島、抽象的
対象:中高生向け

◆あらすじ(amazonより抜粋)
太平洋の真ん中、赤道直下に浮かぶ、名前のない小さな島。そこには教会があり、神父とわずかな島民が暮らし、訪れるどんな二人も祝福され、結婚式を挙げることができる。同性愛、近親愛、不倫愛、そこではあらゆる愛がゆるされる―その二人が、ほんとうに愛し合っているかぎり。その島を訪れる、父親と娘。それから姉と弟。ある者は愛の存在証明のために。またある者は不在証明のために。様々なものを見失って渇いた者たちの、いのちと時間がその場所で交錯する―。

◆評価
総評:凡作
総点:57
ストーリー:7
文章:5
キャラ:4
意外性:9
世界観:5
テンポのよさ:4
オリジナリティ:6
ネーミング:7
背景:5
イラスト:6
◆書評
 作者買い。
 作者が示したかった「愛と物語」のテーマはまずまず表現できていただろう。しかし、構成に関するトリックと回りくどい比喩表現ばかり悪目立ちする文章は冗長であったと思う。ストイックに物事を書き、もっと分かりやすい書き方をすべきだった。杉井作品の好きな読者には賛否きっぱりと分かれそうだ。

○メディアワークス文庫
 ライトノベルレーベルの電撃文庫の読者が一般文芸も読めるような架け橋となる作品だった。ライトノベルは俗にキャラ小説とも呼ばれるため、キャラクターで魅せる要素を抑えた今作はやはり一般文芸なのかもしれない。

○中高生向け
 愛と言うテーマはまだ若い俺たちには分からないだろう。
 俺たちはせめて愛に似た恋しかしたことがないからなのだと思う。
 恋と愛とは何が違うのか。
 今作では「深さ」の違いだと述べている。いや、実際には明記していないが、恋という対比を出してしまえば、おのずと愛と恋の違いが見えてくる。作中のクライマックスで描かれるのも愛の深さについてである。冒頭から結末まで愛という単語は多く出てくるが、どれも愛とは深いものを指している。なぜなら、その愛があるのかないのか確かめることが登場人物たちの目標だからだ。
 あとがきでも愛は人類普遍のテーマと言及している。特に中高生ともなれば、誰かを好きになったり多感な時期だ。愛について考えることもあるだろう。そんな人に一つの思想として読んでみていただきたい。

○冗長の多い文章
 とにかく冗長。無駄ばかりで長い文章が多いです。
 比喩表現が多いことが関係しているだろう。今作に限らず、杉井氏は比喩表現をよく使う。その表現が綺麗な響きを持っていたり、単に表現だけを見れば心地よい。しかし、作中で使われるとなると比喩がしっかりと物語の伝えたい部分をつかんでいることを加味しなくてはならない。
 そう、今作はその伝えたい部分がちゃんと伝えられる表現を書ききれていなかったことが大きな減点ポイントだ。ただ単にそれっぽい小奇麗な言葉を羅列しているだけで、要点を得ない表現があまりにも多すぎた。表現には比喩以外にも登場人物の心情描写など全般的なことも含めて冗長まみれで非常に読むテンポを悪くする作品だったと評価する。
 読者に想像させる余裕のない文章だった、とも言えるかもしれない。今作は登場人物の動きを細かいところまで描写していて、そこに形容詞や形容動詞を多く使うのだ。
 一般文芸を意識して、無理をしてしまったのだろう。作者の頑張りは認めつつ、これからはもっと読んでいて面白く感じられる文章を綴っていって欲しいものだ。


 以下、ネタバレとなる。白文字で見えにくくしているので、反転してちゃんと読んで欲しい。


○ストーリー
 二重に叙述トリックが用意された巧妙な構成だ。後半のさらっと読める感じが伏線回収の部分を見逃してしまいそうになるが、しっかりと伏線回収で二重の叙述トリックがされている。
 というか、せっかくのコメントがあるので、それから引用しよう。

「あたし」は咲希の娘である藤岡愛です。この物語は時系列が三つに分かれています。
途中でかつて咲希が島に来ていたこと、俺(藤岡学)の視点から咲希が存在することなどから読者はあたし=幼少期の咲希だとつなげますが、実際は別人だということが最後に明かされています。二重の叙述トリックですね。
つまり実際の時系列としては、
俺(藤岡学)→わたし(咲希)&僕(直樹)→あたし(藤岡愛)
となります。
「あたし」の視点の時に名前がサキ・フジオカだと示される場面がありましたが、あれは母親(咲希)のパスポートを見せていたことも最後に明かされています。自分で名乗ったわけではないというのがミソですね……しかしそれは相手にもそれは見抜かれていたようで、読み返してみると「レンタル店の会員証もつくれない」と言われたのは本人のものではなかった(しかも期限切れ)だったとわかります。以降「あたし」の名前を示すシーンはありません。
そうなると冒頭の「あたし」と父のやりとりは、俺(藤岡学)ではなく直樹と愛であったこともわかります。
キャラが薄いのはこのように人物誤認トリックのためでしょうね。


 ほう……。そういうことでしたか。
 これは自分で気づかないと驚けないね。俺はコメントに書かれて知ったから、なんとなく驚くタイミングを逃してしまってイライラしてる。気づけなかった自分を悔やむ。もう少しで人間やめかけた。
 キャラが薄いのはトリックのためなのは残念。
 キャラを濃くして、象徴的な部分に目を行かせて伏線に気づかなくさせるという手を使って欲しかったが、これだけの詰めた構成の作品だと難しそうだ。

ここまでは作中から明確に読み取れますが、某所にあった意見の中には「あとがきは直樹視点ではないか」というものもあります。
作中で俺(藤岡学)が書いた本に直樹が自分達の経験も足して本にしたと愛が語っていましたが、その本のあとがきなのではないかということです。または藤岡愛の視点自体がまるごとフィクションなのかもしれない、とも。
根拠としては杉井氏は独身らしいですし、作中の教義の記述は島の博士のものを引用した、とありますが本当にこんな島はないだろうということ。最後に杉井光と書いてあったり、実際の杉井光氏のエピソードらしいもの(文庫創刊など)がちりばめられているのはあとがきから読む派の人を考慮したのでしょう。ここだけ読んでも普通のあとがきですからね。
とすると「どうしてこの話を書こうと思ったの?」と訊いた妻とは咲希であり、直樹が答えた「どうして愛の話なのかということ?」の愛とは概念ではなく娘の藤岡愛のことかもしれないとも推測できます。
二人はその後たいして悩んだことはないと言いますが、それはつまり藤岡愛を特になんとも思っていないということだとも。
どこからが事実でどこからがフィクションが全体としてはわからない、ある意味読者次第である辺りが非常に一般文芸のような雰囲気を出していたと思います。


 納得しすぎて、悔しい。
 明確に読み取れないのは俺が悪いのですよ。ふははー、俺の感想の質は低いぞ。さっさとワナビ卒業しないと大変なことになりそうだ。
 あとがきについても変わってるなー、としか思えませんでした。ラノベしか読んでないので分からん。

結論としては、混乱したら再読した方がいいということですかね。
それが杉井光の手の中だとしても……orz


 再読させていただいた。
 なるほど……ナルホド……。すっかり口癖は手越祐也みたいに。


 愛についてどう考えるのか。
 まあ、結論は出せないよ。謎があったほうが名作になるよきっと。

○表紙絵
 真っ赤。
 作中では青い空と表現する。愛とは赤色なのだろう。そのイメージは間違っていないと思う。

○冗長について
 もしかするとわざと冗長にしているかもしれない。
 なぜなら、聖書がこんな感じだからだ。やたらめったら比喩表現が多く、それ以外がけっこう淡白に描くので。
 作者はクリスチャンなのかな? そうであってもそうでなくても、もし狙った文章だとしたら申し訳ない。

○削った部分
すべての愛がゆるされる島 雑記

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ちょっとツッコミ
わたし=あたしではないですよ。
「あたし」は咲希の娘である藤岡愛です。この物語は時系列が三つに分かれています。
途中でかつて咲希が島に来ていたこと、俺(藤岡学)の視点から咲希が存在することなどから読者はあたし=幼少期の咲希だとつなげますが、実際は別人だということが最後に明かされています。二重の叙述トリックですね。
つまり実際の時系列としては、
俺(藤岡学)→わたし(咲希)&僕(直樹)→あたし(藤岡愛)
となります。
「あたし」の視点の時に名前がサキ・フジオカだと示される場面がありましたが、あれは母親(咲希)のパスポートを見せていたことも最後に明かされています。自分で名乗ったわけではないというのがミソですね……しかしそれは相手にもそれは見抜かれていたようで、読み返してみると「レンタル店の会員証もつくれない」と言われたのは本人のものではなかった(しかも期限切れ)だったとわかります。以降「あたし」の名前を示すシーンはありません。
そうなると冒頭の「あたし」と父のやりとりは、俺(藤岡学)ではなく直樹と愛であったこともわかります。
キャラが薄いのはこのように人物誤認トリックのためでしょうね。
自分もあたし=わたしだと思ったときには「騙されはしたけど一人称変えるのはちょっと卑怯だよなー。まぁ時間の隔たりがあるんだから納得できなくはないけどさ」と腑に落ちない点があったのですが、読み進めたらやっぱり別人だったとはやってくれる……! と感じたものです。ちゃんと人物ごとに一人称振ってあったんだね。
ここまでは作中から明確に読み取れますが、某所にあった意見の中には「あとがきは直樹視点ではないか」というものもあります。
作中で俺(藤岡学)が書いた本に直樹が自分達の経験も足して本にしたと愛が語っていましたが、その本のあとがきなのではないかということです。または藤岡愛の視点自体がまるごとフィクションなのかもしれない、とも。
根拠としては杉井氏は独身らしいですし、作中の教義の記述は島の博士のものを引用した、とありますが本当にこんな島はないだろうということ。最後に杉井光と書いてあったり、実際の杉井光氏のエピソードらしいもの(文庫創刊など)がちりばめられているのはあとがきから読む派の人を考慮したのでしょう。ここだけ読んでも普通のあとがきですからね。
とすると「どうしてこの話を書こうと思ったの?」と訊いた妻とは咲希であり、直樹が答えた「どうして愛の話なのかということ?」の愛とは概念ではなく娘の藤岡愛のことかもしれないとも推測できます。
二人はその後たいして悩んだことはないと言いますが、それはつまり藤岡愛を特になんとも思っていないということだとも。
どこからが事実でどこからがフィクションが全体としてはわからない、ある意味読者次第である辺りが非常に一般文芸のような雰囲気を出していたと思います。

結論としては、混乱したら再読した方がいいということですかね。
それが杉井光の手の中だとしても……orz
普段はROMの人 2010/01/21(Thu)14:05: 編集
無題
お久しぶりっす。

わたしもこの作品読んだのですが、やや、サイとさんよくこんな長く感想書けますなぁ……。節々鋭く、色々見てるなぁと関心させてもらいました。
最近はめっきり感想書いてないから、わたしはにぶったかもしれないorz
かわだ 2010/01/27(Wed)04:53: 編集
Re: タイトルなし
 お久しぶりです。
 かわださん。
 河田友二郎(=ミステスさん)さん、ですよね。以前はいろいろとお世話になりました。多くはご迷惑をおかけした出来事ばかりでしたが、申し訳ありません。この場を借りて、謝罪と感謝をします。ありがとうございました。

 できれば、もっと短く、分かりやすい感想を書きたいのですが、書きたいことをまとめてトピックで束ねても全体としては長いです。言葉も漢字にするよりやわらかい印象をあたえる熟語などで理解を促すために多少長い文章になるのは仕方ないのかも知れません。

 節々を鋭く見ているかどうかは自分でも実感がないことです。鋭い……ということがどういうことを示すのかもイマイチ分かっておりません。
 ラ研によくあるように文章作法や小手先の技術ばかりを逐一報告するような重箱の隅をつつく感想か、一般的な感想とは違う観点や見方をしてある意味尖っている感想か、はたまたもっと違う意味の鋭さなのか。
 私は書きたいことをぜんぶ書いて、できるだけ分かりやすい文章と構成にすることを目標としています。
 感想も作品の一つですから、エンターテイメント性溢れた面白い感想にしたいです。

 新しいブログを初めたようですね。
 でも、私とは違い、今でも小説をお書きになろうとされているので、頑張っているなぁと感心させられます。私は受験もありますし、なにより、今の文章力(人生経験や知識なども含めて)では作家には到底なれそうもないので、今は感想と言う形式で文章力を高めようと思っています。創作者的なことといえば、プロットの大量生産をしていることでしょうか。今ある若い時のネタは後の私に役立つように残しております。このブログも未来の私宛です。

 これを機に、リンクさせていただいてもよろしいでしょうか。
 私のブログはリンク先に迷惑をお掛けするやも知れません。事情が事情ですので、飛び火するかも知れません。今ではもう私を揶揄するようなコメントはありませんが、いつも監視されているような気持ちであります。もしかしたら、このことが何かのトリガーになってしまうことを危惧しています。
 多少ネガティブな要素がありますが、もちろんポジティブにリンクをつなぐことで私の不祥事で絶たれた多くの関係とが再び繋がり合う希望があります。そうしたら、また、良い気分で執筆に打ち込めるかも知れません。それで、感想も書き合ったりしたいものです。

 少し、コメントとしては長文となってしまいましたが、もう一度感謝いたします。
 コメントをくださりありがとうございました。
 これからもよろしくお願いしますね。


(((粘着質な俺であった……)))
サイと URL 2010/01/27(Wed)12:41: 編集
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